数学特論8,表現論大意 (2020)

2020年3月27日10:32作成

2020年9月9日14:53更新

授業の日時,場所

  • 前期,水曜日4限.少なくとも春学期(5月13日〜6月24日)は新型コロナウイルス感染拡大のため,遠隔授業を行います.
  • C-501教室

授業の概要

上半平面上の正則関数で離散部分群の作用についてのある種の同変性を持つ「保型形式」は解析学から幾何学,そして近代では整数論と,多くの分野の研究対象だった.1950年代初等になるとGelfand-Fominにより,半単純Lie群を離散部分群で割った商空間上の関数として保型形式が捉えられ,その後,保型形式の空間上に現れるLie群の表現を考察する保型表現論が導入された.保型表現論はその後,Jacquet-Langlandsらにより半単純Lie群をさらに簡約代数群のアデール群に補完した形で定式化され,保型形式に付随する L 関数や周期などの構成が保型表現に拡張された.これらの発展はLie群や p 進群の表現論の強い動機付けとなり,またそれらの表現論の進歩により保型表現論も大きく進展してきた.

この授業では昨年度の授業に続き,保型表現論の基礎となる,簡約代数群ののアデール群の構造を解説する.次いでアデール群上の保型形式を定義し,それと二乗可積分保型表現との関係を説明する.時間に余裕があれば,p 進群の不分岐表現の記述を用いて,保型表現の記述のおおまかな枠組みを紹介する.

講義内容

講義すべき(したい)内容を列挙しています.授業予定と見比べていただければわかるとおり,すべての内容を授業で扱えるわけではありません.

  1. 代数体とそのアデール環
  2. p進簡約群の構造
  3. 簡約アデール群の構造
  4. 簡約アデール群の高さ,Siegel 領域など
  5. 一様緩増加関数,急減少関数,截頭作用素
  6. 保型形式とカスプ形式

授業内容

これはあくまでも予定です.実際には進度やその他の事情により変更になることがあります.

5月13日 局所体

  • 導入的例:p進数体\mathbb{Q}_p
  • 局所体のモジュラスの性質
  • 局所体の分類

5月20日 局所斜体の構造

  • 非アルキメデス局所斜体のモジュラス,極大整環,極大イデアルと剰余体
  • モジュラス次数と分岐指数
  • 有限次不分岐拡大と幾何的フロベニウス元
  • 非アルキメデス局所体上の中心的斜体:分類と実現

5月27日 一般線型群とそのアパート

  • 一般線型群\mathrm{GL}_{n,D}の極大分裂トーラスと相対ルート
  • ルート部分群とワイル群
  • アフィン空間,アフィン写像,アフィン変換群
  • A_{0}のアパート,ルート部分群のフィルトレイション,アフィンルート系とアフィンワイル群
  • Dynkin図形と格別点

6月3日 一般線型群のビルディ
ング

  • D高さ関数
    • 双対高さとGram-Schmidt直交化の類似
    • スペクトル定理の類似
  • \mathrm{GL}_{n,D}(F)のブリュア・ティッツビル\mathfrak{B}(\mathrm{GL}_{n,D})
  • \mathfrak{B}(\mathrm{GL}_{n,D})のアパート,面分,特にアフィンワイル室
  • \mathfrak{B}(\mathrm{GL}_{n,D})の引き込みと距離

6月10日 \mathrm{GL}_{n,D}(F)の構造への応用

  • \mathrm{GL}_{n,D}(F)のパラホリック部分群
    • \mathcal{O}_D格子鎖とパラホリック部分群
    • 面分の安定化群,固定化群
  • \mathrm{GL}_{n,D}(F)の構造
    • 完備CAT(0)空間としての\mathfrak{B}(\mathrm{GL}_{n,D})
    • ブリュア・ティッツの固定点定理と極大コンパクト部分群
    • 岩澤分解

6月17日 アパート導入の準備

  • 群コホモロジーの復習
    • 群コホモロジーの定義と特徴付け
    • 非斉次コチェインと\mathrm{H}^{1}, \mathrm{H}^{2}の意味
  • 極大分裂トーラス
    • 簡約線型代数群の分裂成分A_Gと実リー環\mathfrak{a}_G
    • 極大分裂トーラスと相対ルート系
    • ハリッシュ・チャンドラ準同型

6月24日 出張のため休講

7月1日 アパートとその構造

  • p進簡約群の極大分裂トーラスのアパート
    • 極大分裂トーラスA_{0}のアパート(\mathfrak{A}_0,\nu_0)の定義
    • アパートの存在と標準性
  • 付値付きティッツデータ
    • ティッツデータとその上の付値
    • Bruhat-Titsの主定理:アパートはティッツデータ上の付値の等価類

7月8日 補論—冪単線型代数群

  • 淡中双対性:有理表現による線型代数群の有理点の特徴づけ
  • 主等質空間
    • アフィンS多様体\mathscr{X}へのS線型代数群\mathscr{G}の作用
    • \mathscr{G}捻子の定義と例
  • 冪零・冪単線型変換
    • \exp:\mathscr{N}(V_R)\rightarrow\mathscr{U}(V_R), \log:\mathscr{U}(V_R)\rightarrow\mathscr{N}(V_R)

7月15日 アフィンルート系と格別点

  • 冪単線型代数群の指数射\exp : \mathfrak{u}\rightarrow U
  • アフィンルート系
    • 同型\exp_{\alpha}:\mathfrak{g}_{\alpha}\to U_{(\alpha)}/U_{(2\alpha)}
    • \mathfrak{g}_{\alpha}\mathcal{O}格子\Lambda_{\alpha}F高さ\|\ \|_\alpha
    • (G,A_0)のアフィンルート系\Sigma_{\mathrm{aff}}(A_0)
    • \mathfrak{A}_0の半アパート,アフィンワイル室,面分
    • (G,A_0)のアフィンワイル群
    • 局所ワイル群,局所ルート系と格別点

7月22日 ガロア作用と超格別点

  • トーラスの存在条件
  • アパートへのガロア作用
    • アパートへのガロア作用と,ガロア固定部分のアパート構造
    • 不分岐拡大とアフィンルート系の関係
  • 超格別点
    • 不分岐簡約線型代数群
    • 超格別点

7月29日 ブリュア・ティッツビル

  • ブリュア・ティッツビル
    • 部分群K_\Omega\supset K_{\Omega}^1
    • K_{\Omega}^1の岩堀分解
    • G(F)のブリュア・ティッツビルG(F)\curvearrowright \mathfrak{B}(G)\hookleftarrow \mathfrak{A}_0の定義と存在
  • ブリュア・ティッツビルの幾何的構造
    • \mathfrak{B}(G)のアパートとその推移性
    • \mathfrak{B}(G)の面分とアフィンワイル室

8月5日 分解定理

  • 岩堀部分群K_C\subset G(F)
  • 岩堀・岩澤分解
  • アパートの界隈と付随するアフィンワイル室
  • Bruhat-岩堀・松本分解

8月12日 G(F)の構造

  • ブリュア・ティッツビルの幾何構造 (つづき)
    • 面分を繋ぐアパートの存在と引き込み\rho_C : \mathfrak{B}(G)\to \mathfrak{A}_0
    • \mathfrak{B}(G)は完備CAT(0)空間
  • 格別点とガロア作用
    • ブリュア・ティッツビルへのガロア作用
    • 有限次拡大とブリュア・ティッツビル
    • 不分岐拡大と超格別点
  • 極大コンパクト部分群
    • パラホリック部分群と極大コンパクト部分群
    • 格別及び超格別極大コンパクト部分群
    • A_0に関してよい位置にある極大コンパクト部分群
    • 岩澤分解

参考文献

随時,授業内容に関する参考文献を挙げていきます.

体論

[7] 今野拓也, 代数学 III 講義ノート (2019 年度) 2019. 

極大不分岐拡大に関する Lang の定理:

S. Lang, On quasi-algebraic closure. Ann. of Math. 55, 1952, pp. 373-390.

局所斜体と高さ関数

[5] Weil, A., Basic number theorySpringer-Verlag, 1995, xviii+315.

ホモロジー代数

[4] Cartan, H. & Eilenberg, S. Homological algebraPrinceton University Press, 1999, xvi+390.

ルート系

[6] ブルバキ , N., 杉浦光夫訳, 数学原論「リー群とリー環 3」東京図書, 1970, viii+331.

体上の簡約線型代数群

[1] Borel, A. & Tits, J., Groupes réductifs. Publications Mathématiques de l’IHÉS, Tome 27  (1965), pp. 55-151.

シュタインバーグの定理は次の論文にある.

Steinberg, R., Regular elements of semisimple algebraic groups
Inst. Hautes Études Sci. Publ. Math., 1965, pp. 49-80.

有限体上の線型代数群のガロアコホモロジーについての Lang の定理:

S. Lang, Algebraic groups over finite fields, Amer. J. Math. 78 1956, pp. 555-563.

Bruhat-Titsビル

[2] Bruhat, F. & Tits, J., Groupes réductifs sur un corps local : I. Données radicielles valuées. Publications Mathématiques de l’IHÉS, Tome 41  (1972), pp. 5-251.

[3] Bruhat, F. & Tits, J., Groupes réductifs sur un corps local : II. Schémas en groupes. Existence d’une donnée radicielle valuée. Publications Mathématiques de l’IHÉS, Tome 60  (1984), pp. 5-184.

成績評価について

成績は授業中に出す課題についてのレポートによります.