2019年3月14日12:10作成
2019年7月24日19:55更新
授業の日時,場所
- 2019年度前期,水曜日3限
- C-501教室
授業の概要
上半平面上の正則関数で離散部分群の作用についてのある種の同変性を持つ「保型形式」は解析学から幾何学,そして近代では整数論と,多くの分野の研究対象だった.1950年代初等になるとGelfand-Fominにより,半単純Lie群を離散部分群で割った商空間上の関数として保型形式が捉えられ,その後,保型形式の空間上に現れるLie群の表現を考察する保型表現論が導入された.保型表現論はその後,Jacquet-Langlandsらにより半単純Lie群をさらに簡約代数群のアデール群に補完した形で定式化され,保型形式に付随する 関数や周期などの構成が保型表現に拡張された.これらの発展はLie群や 進群の表現論の強い動機付けとなり,またそれらの表現論の進歩により保型表現論も大きく進展してきた.
この授業ではまず,保型表現論の基礎となる,簡約代数群の構造,そのアデール群の構造を解説する.次いでアデール群上の保型形式を定義し,それと二乗可積分保型表現との関係を説明する.時間に余裕があれば, 進群の不分岐表現の記述を用いて,保型表現の記述のおおまかな枠組みを紹介する.
講義内容
講義すべき(したい)内容を列挙しています.授業予定と見比べていただければわかるとおり,すべての内容を授業で扱えるわけではありません.
- 簡約代数群の構造
- 代数体とそのアデール環
- 簡約Lie群の構造
- 進簡約群の構造
- 簡約アデール群の高さ,Siegel 領域など
- 一様緩増加関数,急減少関数,截頭作用素
- 保型形式とカスプ形式
授業内容
これはあくまでも予定です.実際には進度やその他の事情により変更になることがあります.
4月
10日 保型表現への導入
- 1.1. 保型形式の定義
- 1.2. 上の保型形式
- 1.3. アデール群上の保型形式
- 1.3.1. 有理数体のアデール環
- 1.3.2. 上の尖点形式
- 1.3.3. 量指標
- 1.4. 保型形式の場合
17日 線型代数群の基礎概念
- 2.1. 線型代数群 (アフィン多様体,積多様体,線型代数群,部分群,準同型の像と核,準同型定理)
-
2.2. 係数体の操作 (底変換,ガロア降下,Weil 係数制限)
- 2.3. 線型代数群の作用
- 2.4. 次元と連結成分 (アフィン多様体の既約成分と次元,連結成分.連結成分群と単位元成分)
24日 休講
5月
1日 新天皇即位のため休講
8日 線型代数群の基礎概念 (2)
- 3.1. リー環
- リー環の定義と例
- アフィン多様体の接空間と非特異点
- 線型代数群のリー環の定義と例
- 準同型とリー環の関係
- 3.2. 有理表現
- の有理表現と余加群
- 有理表現の構成法:部分群への制限,正規部分群の固定部分,外部テンソル積とテンソル積
- 有理表現の微分表現
- 作用に付随する有理表現
- 随伴表現とその応用:微分表現,
- Chevalleyの不動直線定理:;部分群,;の有理表現,;1次元部分空間 s.t. .
- 部分表現の微分表現は部分表現.
- 正規部分群のリー環はイデアル.
- の指標群と絶対指標群
- ;の有理表現,;部分群の指標による,等型部分空間
15日 可解代数群
- 有理表現の続き:Jordan分解
- 標数0の場合
- Cartierの定理の帰結:リー環,線型代数群は順滑
- 応用:連結部分群とリー部分環,有理表現とその微分表現の部分表現,連結正規部分群のリー環
- 可解線型代数群
- 冪単線型代数群
- 冪単線型代数群,冪単根基と簡約線型代数群,Levi分解
- Levi分解と指標群
- 簡約線型代数群の例:古典群
- 乗法型線型代数群
- 対角化可能線型代数群と乗法型線型代数群
- 指標群の制限写像
- 剛性定理
- トーラスとその余指標群
- トーラスの分裂成分 (split component)
- 可解線型代数群
- 導来群 (derived group)と可解線型代数群
- 分裂可解線型代数群とその構造定理
- 根基と半単純線型代数群,半単純リー環
- 冪単線型代数群
22日 簡約線型代数群の構造
- 可解線型代数群
- 半単純代数群の判定律
- ボレル部分群とその基本性質
- ボレル対と代数群の階数
- 連結簡約線型代数群の根基,随伴群,導来群
- ルートデータ
- ルートデータとルート系,被約性
- ワイル群とワイル室,ルート系の基底(単純ルート)
- ワイル群上の長さ関数
- 基底付きルートデータ
- 分裂簡約線型代数群のルートデータ
- のワイル群
- のルート,コルート,ルートデータ
- ルートデータの例:分裂古典群
- Chevalley の分類定理
- 簡約線型代数群の構造
- 放物型部分群,Levi 部分群とその記述
- 極小放物型部分群の共役定理,連結簡約線型代数群の階数
- 相対ルートデータ
- 極小放物型部分群と,相対ルート系の基底
- 標準放物型部分群,標準Levi部分群とその記述
- Bruhat分解
29日 簡約線型代数群の有理表現
- 半単純リー環の既約表現(復習)
- 分裂簡約線型代数群の補足
- ルート部分群とBruhat分解
- ルート部分群
- アフィン多様体としてのBruhat分解,開胞体
- へのの作用
- 単連結被覆
- 乗法型同種と単連結線型代数群
- 簡約代数群の乗法型同種と極大トーラス
- 簡約代数群の乗法型同種とルートデータの中心的同種の対応
- 半単代数群の単連結性
- ルート部分群とBruhat分解
- 分裂簡約群の有理表現
- 既約有理表現の構造
- とのウェイト空間への作用
- 原始ベクトルで生成される有理表現の構造
- 既約有理表現の構造
6月
5日 簡約線型代数群の有理表現 (2)
- 分裂簡約群の有理表現
- 既約有理表現の構造
- 既約有理表現の原始ベクトルと最高ウェイト
- 既約有理表現の同型類は最高ウェイトで決まる.
- 既約有理表現の構成
- 余加群とその原始ベクトル
- 半単純単連結な場合
- 一般の場合:同種射の利用
- 既約有理表現の構造
- 有理表現の完全可約性
- 完全可約有理表現
- 有理表現の直和とその核
- 完全可約有理表現の定義
- 標数の体上の連結簡約線型代数群の有理表現は完全可約.
- リー環の普遍包絡環
- 代数閉包への帰着
- 中心指標による分解
- 半単純群の場合:Weylの定理
- 完全可約有理表現
12日 実線型代数群とリー群
- 実線型代数群とリー群
- 単様体とその写像
- 接空間,はめ込みと埋め込み
- リー群の定義,実線型代数群が一意なリー群構造を持つこと.
- リー環
- リー群のリー環,部分群とリー部分環の対応
- 複素半単純リー環のコンパクト実形
- 実線型代数群のリー環とリー群のリー環
- 指数写像
- 一径数部分群とリー群の指数写像
- リー群の連続準同型はリー群準同型
19日 指数写像の応用,コンパクト群の表現論入門
- 指数写像の応用
- 連結線型代数群は連結リー群
- 一般線型群の指数写像とその微分
- 極分解
- コンパクト群の表現
- コンパクト群の表現とその間の準同型,部分/商表現と既約表現
- Schurの補題とSchurの直交関係
- コンパクト群のユニタリ表現
- コンパクト群のユニタリ表現
- Peter-Weylの定理(1): 離散分解
- Peter-Weylの定理(2): スペクトル分解
26日 コンパクト群の表現論
- コンパクト群のユニタリ表現
- ユニタリ誘導表現とFrobenius相互律
- 行列成分の制限写像
- 実ユニタリ群の既約表現
- コンパクトリー群の表現
- コンパクト形式とCartan対合
- Chevalleyの淡中双対性
7月
3日 コンパクト形式とCartan対合
- コンパクト形式
- 連結簡約線型代数群のコンパクト形式の存在
- の極分解
- Cartan対合
- 連結簡約線型代数群のCartan対合の定義
- トーラスのCartan対合の存在
- 連結簡約線型代数群はCartan対合を持つ.
10日 リーマン対称空間
- アフィン空間と測地線
- 単様体上のアフィン接続,測地線
- 測地線の基本性質と指数写像,正規座標近傍
- 測地対称
- リーマン単様体
- リーマン計量,曲線の長さ,距離
- リーマン接続
- 等長写像
- リーマン対称空間
- カルタン分解
- の実解析構造とリーマン計量
- リーマン対称空間
17日 Bruhat-Titsの不動点定理
- 先週の補足
- アフィン接続の平行移動と共変微分
- リー環上の良い内積
- は局所伸長写像
- 上の測地線, ()
- 制限ルート系とカルタン分解
- CAT(0)空間
- 定義と例
- Serreの考察
- Bruhat-Titsの不動点定理
24日 極大コンパクト部分群
- 極大コンパクト部分群
- は極大コンパクト部分群.
- ;コンパクト部分群, s.t. .
- Cartan対合の共役定理: ;連結簡約線型代数群,;連結簡約部分群,;上のCartan対合.
- ;上のCartan対合 s.t. ;
- 上のようなCartan対合$\latex \theta$は互いに共役.
- 岩澤分解
- ;極小放物型部分群,;の分裂成分. ;極大アーベル部分環
- -good maximal compact subgroup の定義
- リー環の岩澤分解: . ()
- 岩澤分解, ()
参考文献
随時,授業内容に関する参考文献を挙げていきます.
成績評価について
単位がほしい人は授業中に出題する問に解答し,それをレポートにして提出して下さい.提出時期は学期末になりますが,授業内容を理解する上では出題された時期に解答することが必要です.
レポート課題