2016-04-13 (水) 21:28 作成
2016-08-10 (水) 12:11 レポート解答例をアップしました.
2016-08-19 (金) 10:00 最終更新 レポート返却の連絡を加えました.
授業の日時,場所
- 火曜日5時限目
- センター2号館2404 (2016年4月22日.理学部講義棟 302から変更になりました.)
授業の概要
代数方程式は古くは古代バビロニア王国の時代から多くの人びとによって考察されてきた.中世にあっては,代数方程式を解くことを目的にさまざまな代数的,あるいは幾何的な手法が導入されてきた.さらに近代にはガウスの貢献に見られるように,実数の特性のような解析的な発見をもたらしている.こうした道筋はそのまま現代の数学教育カリキュラムの根底をなしている. この授業ではイスラム数学からガロアに至るまで,代数方程式を取り巻く数学の発展を初等数学の言葉で学んでいく.そうすることで小学校から高等学校までの数学のカリキュラム内容がどのように互いに結びついているかを有機的に学ぶことができる.
授業内容
4月
- 12日 ガイダンス,メソポタミアの代数方程式
- ガイダンス:教室については今後対応.
- メソポタミア,シュメール人の数の世界
- 線型方程式系の扱い
- 二次方程式(系)の例
- 古代ギリシャの数の世界
- ピタゴラス数に関連する方程式
- 19日 古代ギリシャの代数方程式
- 整数性を用いる例:Heronの公式周辺の例
- 線型方程式系:ティマリダスの方法,アルキメデスの牛の問題
- ディオファントスのArithmeticaの不定方程式:線型関係の利用
- レポート課題
- 26日 アラビア数学:アル・フワーリズミー (al-Khwārizmī, 発音)
- 時代背景
- 代数学II, III巻の内容
- 代数学I巻:6つの方程式
- その他の仕事
- レポート課題
5月
- 3日 憲法記念日でお休み
- 10日 その後のアラビア数学
- 連絡:レポート提出について
- サービト・イブン・クッラ
- 経歴,代数学
- 友愛数への貢献
- ウマル・ハイヤーム
- 経歴,ルバイヤートや二項定理など
- 3次方程式の幾何的解法
- レポート問題
- 17日 イタリア代数学の序章
- Abbacistsの登場
- Leonardo Pisano (Fibonacci)
- 略歴
- Liber Abbaci: 線型方程式系,立方根,二次方程式など
- Liber Quadratorum: ディオファントス方程式
- 他のAbbacistの貢献
- 二次方程式:実数解のないもの,解の共役性の発見
- 3次方程式への挑戦
- レポート問題
- 24日 3次方程式
- Dardi da Pisa, Piero della Francescaの3次方程式: 立方完成できるもののみ
- Scipione del Ferroによる の解法
- Niccolò Fontana (Tartaglia)
- Gerolamo Cardanoによる3次方程式の解法,casus irreducibilis と複素数への疑念
- 31日 4次方程式
- Lodovico Ferrariによる4次方程式の3次方程式への帰着
- Rafael Bombelli の L’Algebra
- 1巻:連分数による平方根の計算
- 2巻:3次および4次方程式の解法
- Bombelli による casus irreducibilis の扱いと虚数単位 più di meno () と meno di meno ()
- レポート問題
6月
- 7日 座標幾何の登場
- François Viète の幾何学,3次方程式の三角法による解法.
- Simon Stevin:小数による実数の連続性,現代数学記号の導入
- Pierre de Fermat の解析幾何学
- René Descartes の解析幾何学
- レポート問題
- 14日 置換と分解方程式
- Waring による対称関数の研究
- Vandermonde:Lagrange分解式
- Lagrange による3次方程式の解明
- Euler による4次方程式の解法
- 21日 代数学の基本定理
- Gauss の円分方程式の研究
- 素数次の場合
- Fermat素数次の場合が平方根で解けること:例
- 代数学の基本定理,Gauss による第3の証明
- レポート問題
- Gauss の円分方程式の研究
- 28日 アーベルとガロア
- Abel と Galois の生涯
- $n$ 次方程式 , の可解性条件:
- 体 は $\alpha$ の 係数有理関数の集合
- 原始元定理
- Galois群 の構成
- 冪根による可解性条件: s.t.
は素数, ().
(Galois の当時は商群は知られていなかったので,剰余類分解の濃度で表現している.)
- 素数次既約方程式の場合
7月
- 5日 低次方程式再論
- 2次方程式
- 3次方程式:
- 正三角形 の合同変換の群
- 回転変換の群 に対する Lagrange 分解式
- 判別式
- 4次方程式:
- 正四面体 の(4次元空間での)合同変換群
- 3次元空間での合同変換群
- Kleinの4元群 $V$ とそれに対する Lagrange 分解式
- , , ただし , , は分解3次方程式
の解.
- 非可解な 5次方程式の例
- レポート問題
- 12日 法 還元
- 前半のレポートを返却
- 法 剰余の集合 に加法,減法,乗法を定める.
- が素数ならば, の 以外の元は乗法の逆元を持つ.
- 整数係数多項式 の法 還元
- 多項式の既約性への応用:Gauss の補題と Eisenstein (Schoenemann) の判定律
- 法 方程式の例:平方剰余 (Legendre) 記号
- 分解式 (resolvent) としての Gauss 和
- レポート問題
- 19日 対称性
- 26日 メビウス対称性
- Jordan による有限回転群 の分類
- とメビウス変換
- とステレオ投影
- 2枚被覆
- 有限メビウス群の分類 (Klein)
- レポート回収
参考文献
- Jacques Sesiano, Une Introduction a l’Histoire de l’Algebre, Presses Polytechniques et Universitaires Romandes, 1998.
- ブルバキ,「数学原論」代数4, 倉田令二朗,清水達雄訳,東京図書,1969. 特に巻末の「歴史覚え書き」.
- 高木 貞治,初等整数論講義,第2版,共立出版,1971.特に§17.
- Œuvres mathématiques d’Évariste Galois, フランス数学会,E. Picard 編集,Gauthier-Villars, 1897.
- 一松 信,正多面体を解く,東海大学出版部,2002.特に1章と3章.
- 松澤 淳一,特異点とルート系,すうがくの風景6,朝倉書店,2002.
- F. Klein, 正20面体と5次方程式 (原題:Vorlesungen über das Ikosaeder und die Auflösung der Gleichungen vom 5ten Grade では12面体!), シュプリンガー数学クラシックス,関口次郎,前田博信 訳,丸善出版,2012.
成績評価について
成績は授業中に提示する課題についてのレポートと,授業への出席を総合して行います.
2016年8月17日:成績を登録しました.履修登録者119名中レポート提出者は107名,そのうち合格者は86名でした.
レポート提出について
- レポート課題の数学的な内容は簡単です.数学を学ぶ科目のレポートではありませんから,ただ解答を述べているだけでは意味がありません.特に式を羅列しただけのようなもの,また乱文乱筆のものは論外です.
- 教員に求められる資質,責任を意識して,生徒に説明するつもりで,丁寧なわかりやすいレポートが作成できているかどうかを評価します.
1回目
5月31日の授業の際に第一回目のレポート提出をしてもらいます.教育実習のため当日提出できない人は教育実習の期間を証明する書類とともに以下の期日に提出してください.
教育実習期間 | 提出期日 |
5月28日〜6月23日 | 5月24日 |
5月16日または23日〜6月3日 | 6月7日 |
5月23日〜6月10日 | 6月14日 |
5月23日〜6月17日 | 6月21日 |
2回目
7月26日の授業の際に第二回目のレポート提出をしてもらいます.レポート課題5〜10が対象ですが,教育実習などで第一回目の課題を出していない人はそれらの課題もまとめて今回提出してください.
後半のレポートの返却について (8月19日)
後半のレポートを返却してもらうよう,数理事務室にお願いしてきました.履修生の方は8月,9月の間に数理事務室に来て,自分のレポートを受け取ってください.9月中までに受け取らなかったレポートは10月以降,私が保管することになります.
レポート課題
授業中に出したレポート課題をまとめておきます.ただしレポートでは授業で問題の前後にお話した状況を踏まえた論説が求められていますので,必ず授業のノートを見返して考えてください.
前半
1. ディオファントスの線型関係の導入の意味を各自の言葉で説明しなさい.また余力があれば,それによって全ての解が得られるかどうか考察しなさい.
2. 授業の例3.3で とした場合に授業で与えたような解答を与えなさい.
3. 正数 に対して,3次方程式 が正数解を持つための条件を求め,その場合に授業の例4.3のような幾何的解法を与えなさい.
後半
5. 授業の例に倣って の近似列を構成して,それを説明しなさい.
6. 平面上の 個の点 を取る.点 からの距離の平方の についての和が一定である点 の軌跡を求め, その解答を説 明しなさい.
7. 正5角形の定規とコンパスによる作図法を考えて,それを説明しなさい.
8. 正 角形の合同変換の個数を授業の考察にならって求めなさい.それらのなす群を とするとき, が Galois の可解性定理の条件を満たすかどうかを検証しなさい.
9. 素数 に対して を 次円分多項式という.命題13.1 を使って では は既約であることを示しなさい.
10. 立方体が4本の対角線を持つことを用いて,8面体群 が に同型であることを説明しなさい.(2年生は両者の間に全単射があることを説明しなさい.)
レポート解答例
レポート解答例はこちらのページにあります.