2018年4月8日作成
2019年3月6日11:37最終更新
授業の日時,場所
- 水曜日2時限目
教科書について
この授業では教科書は特に指定しません.演習問題などは毎回,板書またはプリントにして配布します.
授業の進め方
- 毎回授業の最初に演習をします.
- 前回の授業のときにそれぞれの演習問題の解答者を指名しておきます.指名された人は授業時間が始まるまでに黒板に解答を書いておいてください.教科書の巻末にある解答を写すのではなく,自分の理解を反映して自身の言葉で書いてください.それが自分のためにもクラスメートのためにも大切です.
- 黒板の解答に沿って,理解すべき点や解答で書くべきことを私が説明します.なるべくきちんとした解答が黒板に残るように朱筆を加えますが,説明の方もよく聞いてください.原則として,黒板に解答がない問題については解説しません.
- なお、再履修の方は学期半ばまで履修者名簿に名前がないため,こちらから指名するのは難しいかもしれません.積極的に自分から名乗り出て演習を解くようにしてください.
- 続いて講義を行います.講義では
- 基本的な概念 (定義) の説明
- それらの概念の満たす性質 (命題、定理など)
- それらの性質を使って計算する方法 (例題) の解説
についてお話しします.ときどき命題や定理の証明もしますが,それは内容をよりよく理解して使えるようになってもらうためで,証明を覚える必要は特にありません.
- 最後に次回の演習の解答者を指名します.
履修のコツ
線形代数に限らず数学科目では,前回まで学んだ内容の上に授業内容が積み重なって,複雑な概念を無理なく理解し,自分の考察に運用できるようにしていきます.喩えるならば,日々負荷を高めることで身体能力を上げていくアスリートの訓練のようなもので,このような能力を上げる目的には,日々の積み重ねが最も大切です.
そのためには,毎週の授業で学んだ内容をその日のうちに必ず復習し,出された演習問題を,これまた必ずその日のうちに解いてみることです.初回の授業からこの2点をきちんと実行していれば,学期末になって特に試験の準備をする必要はないはずです.逆に毎回の授業内容を習得することを怠っていれば,試験前にいくら詰め込み勉強をしたとしても,ほとんど効果はありません.簡単なことですので,履修者の皆さんは意志を持って上の2点を守るようにしてください.
授業予定
これはあくまで予定であり,事情により随時変更されることがあります.
10月3日 行列式
1.1. 置換
定義1.1. 自然数に対して
(i)集合から自分自身への可逆写像 を次の置換 (permutation)といい,それらの集合をと書く.
(ii)置換の逆転 (inversion)の集合
長さ (length) と,符号 (signature) .
1.2. 行列式
定義1.2. 次正方行列の行列式 (determinant)
例1.1. の場合.
10月10日 金曜授業日
10月17日 行列式の基本性質
1. 基本性質
行列の転置行列 (transpose)
補題2.1. 次正方行列に対して.
命題 2.1 (行列式の線形性). 次正方行列に対して,はの各行ベクトル,列ベクトルの線形関数.
命題 2.2 (行列式の交代性). を次正方行列,その2つの行ベクトル(または列ベクトル)を入れ替えた行列をとすると,である.特に2つの行ベクトルが一致する行列の行列式はである.
2. 基本性質の応用
命題 2.3 (行列式の計算法). 次正方行列の簡約行列を作る際に,行の定数倍倍と,2つの行の入れ替えを回行ったとする.
(i) が可逆であるためには,であることが必要十分である.
(ii)そのときである.
命題 2.4. (i) 次正方行列, に対して,が成り立つ.
(ii)特にが可逆なら,である.
10月24日 Laplace 展開
3.1. 行列式の展開
定義 3.1. 次正方行列の小行列 (-minor)
定理 3.1 (Laplace 展開). 次正方行列に対して
3.2. 線形変換の行列式
;次元ベクトル空間,;線形写像,;の基底.
の行列:
定義 3.2. 線形変換の行列式 .この定義は基底の取り方によらない.
10月31日 行列式と体積
4.1. 行列式と面積
補題 4.1.可逆な2次正方行列に対して,, の張る平行四辺形の面積はに等しい.
4.2. 高次元体積と行列式
定義 4.1. の張る平行次元体 (-parallelpiped)
その次元体積 (-volume) を,に関して帰納的に
と定める.ただしである.
命題 4.1. に対して,行列を取れば,
11月7日 Cramer の公式
5.1. Cramerの公式
定理 5.1. (Cramer, 1750年) が次可逆行列のとき,の解は
で与えられる.
系 5.1. 次可逆行列の逆行列は
で与えられる.
5.2. 内積空間
定義5.1. ベクトル空間上の内積とは,写像で次の条件を満たすもの.
- 任意のに対して,は線型写像である.
- , (, )である(対称性).
- , に対してである(正定値).
ベクトル空間とその上の内積の組を内積空間 (inner product space)という.
11月14日 内積空間
6.1. 直交射影
定義 6.1. ;内積空間.のノルム
の元とが直交する (orthogonal): とはであること.
定義 6.2. 内積空間の部分空間に対して,は内積空間になる.
(i) が有限基底を持つとき,が正規直交基底であるとは,
が成り立つこと.
(ii)上の状況で写像を
と定めれば,これは
を満たす唯一の線型写像.これをへの直交射影という.
6.2. フーリエ展開への導入
上の内積を
と取り直す.
次三角多項式の空間
定理 6.1. はの正規直交基底である.
に対して,
とおく.
事実 6.1 (Fourier 展開の完備性). に対して.
系 6.1 (Perseval の等式). に対して,
11月21日 前半の復習
11月28日 中間テスト
12月5日 固有値と固有ベクトル
8.1. 線形力学系
8.2. 固有値と固有ベクトル
定義 8.1. ベクトル, が次正方行列の固有ベクトル (eigenvector)とは,あるに対して
が成り立つこと.このときのをの固有値 (eigenvalue)と呼び,をの固有ベクトルともいう.
12月12日 固有値と固有ベクトルの計算法
9.1. 固有値の計算法
補題 9.1. が次正方行列の固有値であるためには,であることが必要十分.
定義 9.1. 次正方行列の特性多項式 (characteristic polynomial)
系 9.1. 次正方行列の固有値はの実数解にほかならない.
定義 9.2. 次正方行列の固有値を取れば,因数定理により
と書ける.このをの代数重複度 (algebraic multiplicity)と呼び,で表す.
9.2. 固有ベクトルの求め方
定義9.3. 次正方行列とに対して
をの固有空間 (-eigenspace)という.
定義 9.4. 次正方行列の固有値に対して,を,の幾何重複度 (geometric multiplicity)という.
命題9.1. 次正方行列の固有値に対して,.
12月19日 固有基底と対角化
10.1. 固有基底
定義 10.1. 次正方行列を取る.の固有ベクトルからなるの基底をの固有基底 (eigenbasis)という.の固有基底は必ずしも存在するとは限らない.
固有基底が存在するための十分条件:
補題 10.1. を次正方行列とする.の互いに異なる固有値の固有ベクトルは一次独立.
系 10.1. 次正方行列が個の異なる固有値を持てば,の固有基底が存在する.
系10.2. 次正方行列の全ての固有値をと書く.等式
が成り立つならば,の固有基底が存在する.
10.2. 行列の対角化
命題 10.1. 線型写像の行列が固有基底を持つとし,各の固有値をと書くとき,
定義 10.2. (i) 次正方行列, が相似 (similar)であるとは,ある次可逆行列に対してが成り立つこと.
(ii) 次正方行列が対角化可能 (diagonalizable)であるとは,が対角行列に相似であること.
系 10.3. 次正方行列が対角化可能であるためには,の固有基底が存在することが必要十分.
12月26日 冬季休業
1月2日 冬季休業
1月9日 対称行列のスペクトル定理
11.1. 対称行列
行列やベクトルの係数の範囲を実数の集合から複素数の集合にまで広げる.
次正方行列
はに実係数の場合と同じように作用する.
がの複素固有ベクトルであるとは
が成り立つこと.このときをの複素固有値という.
, の内積を
と定義する.内積の性質は対称性がエルミート性
に変わることを除けば,同様の性質が成り立つ.
補題 11.1. (実係数)対称行列の特性方程式の解は全て実数である.
補題 11.2. 対称行列の異なる固有値, の固有空間とは互いに直交する.
11.2. スペクトル定理
定義 11.1. 次正方行列が直交対角化可能 (orthogonally diagonalizable)であるとは,ある直交行列に対してが対角行列になること.
定理 11.1 (スペクトル定理). 次正方行列が直交対角化可能であるためには,が対称行列であることが必要十分である.
注意 11.1. 次対称行列の直交対角化は,これまでに学んだ方法を用いて,以下のように計算できる.
- を解いての固有値を求める.
- 各の固有空間を求め,それにGram-Schmidtの直交化を適用して,正規直交基底を作る.
- このときはの正規直交基底であり,それを並べて得られる直交行列をとすれば,
が成り立つ.
1月16日 二次形式への応用
12.1. 二次形式
定義 12.1. 上の二次斉次関数
を変数二次形式 (quadratic form)という.これは対称行列
を用いてと書ける.
定義 12.2. 変数二次形式が(半) 正定値 (positive (semi-) definite)とは,任意の, に対して ()となること.が(半) 負定値 (negative (semi-) definite)とは,が(半)正定値であること.が不定値 (indefinite)であるとは,が半正定値でも半不定値でもないこと.
命題 12.1. 二次形式が(半)正定値であるためには,付随する対称行列の全ての固有値が正(非負)であることが必要十分.
定義12.3. 次正方行列とに対して
をの次主小行列 (-th. principal minor matrix)という.
定理 12.1. 二次形式が正定値であるためには,, ()であることが必要十分.
補題 12.1. 次対称行列が, ()を満たせば,対角成分が正である上三角行列があってと書ける.この分解をのコレスキー分解 (Cholesky decomposition)という.
1月23日 特異値分解
13.1. 特異値
補題 13.1. 行列に対して,の固有値は非負である.
定義 13.1. 行列に対して,の固有値の平方根をの特異値 (singular value)という.特異値は通常,大きい順に並べてと書かれる.
定理13.1. 行列に付随する線形写像に対して,の正規直交基底で次が成り立つものがある.
- , ().
- , (はの特異値).
系13.1. 行列を取る.
(i) とすると,である.
(ii) 特異値分解.次直交行列と次直交行列があって,,
と書ける.特にでが可逆な場合の特異値分解をCartan分解ともいう.
1月30日 後半の復習
2月6日 期末テスト
成績評価について
成績評価は中間,期末テストの結果を総合的に判断して行います.
中間テストの連絡
11月28日(水)の授業の時間に中間テストを行いました.
- 範囲は行列式と内積空間で,10月3日から11月14日までの講義内容と10月17日から11月21日までの演習内容です.
- 教科書,ノートの持ち込みは禁止します.
- 試験当日は,学生証と筆記具,それに計時機能のみを備えた時計を持参してください.
中間テストの再試験の連絡
12月26日(水)の2限目に,2306講義室で中間テストの再試験を行いました.
対象者は希望者全員で,試験範囲と受験要領は中間テストと同じです.
期末テストの連絡
2月6日の2時限目に2204教室で期末テストを行いました.
- 範囲は固有値,固有ベクトルと行列の対角化,12月5日から1月23日までの授業内容と,12月12日から1月30日までの演習内容です.
- 教科書,ノートなどの持ち込みは禁止します.
- 試験当日は筆記具,学生証,計時機能のみを備えた時計を持参しなさい.
- 期末テストの再試験は行いません.