線形代数(2018年度編入生向け)

2018年4月10日作成

2018年7月19日7時50分更新

授業日時と場所

  • 水曜日15時50分から17時20分まで
  • C-612セミナー室

線型代数とは

線型代数学は英語では linear algebra で,linear は 1 次式の意味です.一方の algebra の語源は,現在のウズベキスタン周辺であるホラズムの数学者ムハマド・ベン・ ムサ・アル・フワーリズミー (al-Khwarzmi) による al-jabr です.al-jabr は等式の両辺に同じ正の数を足す,あるいはかける操作を指し,両辺から同じ数を差し引く意味の wal muqabala と併せて,方程式を解くことを意味します.すなわち線形代数学は,一次方程式系を解くことや,そこから派生したアイデアを学ぶものです.

教科書について

教科書は特に指定しません.必要に応じて講義資料を配布します.

参考書としては次の2冊を挙げておきます.

授業の進め方

授業は講義によります.授業の最後にはレポート課題を出します.履修者の皆さんは課題の解答をレポートにして,翌週の授業の最初に提出してください.

授業予定

以下はあくまで予定であり,事情により随時変更されることがあります.

4月11日 線型方程式系 (復習)

1.1. Gauss-Jordan 消去法

  • 行基本変形
  • 階段行列 (reduced row echelon form)
  • Gauss-Jordan 消去法

1.2. 行列の階数

  • \mathrm{rank} AA\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} の解の構造

1.3. ベクトル表示

  • 線型結合

4月18日 行列が定める線型写像 (復習)

2.1. 線型写像

  • 写像の定義:写像,写像の合成,単射,全射,全単射
  • 写像 f:\mathbb{R}^n\rightarrow \mathbb{R}^m線型写像であるとは,m\times n行列Aがあってf(\boldsymbol{v})=A\boldsymbol{v}, (\boldsymbol{v}\in \mathbb{R}^n)と書けること.
  • f:\mathbb{R}^n\rightarrow \mathbb{R}^mが線型写像であることの特徴付け.
  • 線型写像の合成と行列の積
  • 線型全単射 (線型変換) の逆写像と逆行列,逆行列の計算方法

2.2. \mathbb{R}^{n}の部分空間

  • 線型写像f:\mathbb{R}^n\ni \boldsymbol{v}\mapsto A\boldsymbol{v}\in \mathbb{R}^m像 \mathrm{Im}f=\mathrm{Im} A \mathrm{Ker}f=\mathrm{Ker}A.
  • \mathbb{R}^{n}の部分空間
  • \boldsymbol{v}_{1},\dots,\boldsymbol{v}_r\in\mathbb{R}^nで張られる部分空間 \mathrm{span}\{\boldsymbol{v}_1,\dots,\boldsymbol{v}_r\}
  • 線型関係,線型従属性と線型独立性.
  • \mathbb{R}^nの部分空間の基底.\mathrm{Im}A\mathrm{Ker}Aの基底の計算方法.

4月25日 一般線型空間

3.1. ベクトル空間

  • ベクトル空間とその例\mathrm{Seq}(\mathbb{R}), C^{r}(\mathbb{R})など.
  • ベクトル空間における線型結合,部分空間とその例\mathrm{Cau}(\mathbb{R})\subset \mathrm{Seq}(\mathbb{R}), \mathbb{R}[x]_{d}\subset \mathbb{R}[x]\subset C^r(\mathbb{R})など.部分集合S\subset Vが張る部分空間

    \displaystyle \mathrm{span}S =\Bigl\{ \sum_{i=1}^r\,c_{i}\boldsymbol{v}_{i} \Big| r\in \mathbb{N}, \,c_{i}\in\mathbb{R},\,\boldsymbol{v}_{i}\in S\Bigr\}

  • 線型関係と線型独立性
  • \mathfrak{B}\subset VVの基底であるとは,次の2条件を満たすこと.
    1. \mathrm{span}\mathfrak{B}=Vかつ
    2. 任意の\boldsymbol{v}_{1},\dots,\boldsymbol{v}_{r}\mathfrak{B}は線型独立.

    \boldsymbol{v}\in V\mathfrak{B}座標 (ベクトル) [\boldsymbol{v}]_{\mathfrak{B}}

  • Vが有限基底を持つとき,その基底の濃度は基底の取り方によらない.それをVの次元と呼び,\mathrm{dim}Vと書く.

3.2. 線型写像と線型同型

  • 線型写像と線型同型.線型写像の例:数列の極限,微分,定積分など.
  • 線型写像f:V\rightarrow Wの基底\mathfrak{B}\subset V, \mathfrak{C}\subset Wに関する行列表示[f]_{\mathfrak{B},\mathfrak{C}}

5月2日 金曜授業日

5月9日 \mathbb{R}^{n} の内積 (復習)

4.1. 基底の補足

  • ベクトル空間Vの部分集合Sに対する\mathrm{span}Sと,Sの線型独立性の定義.
  • ベクトル空間Vの基底.

4.2. \mathbb{R}^nの内積の復習

  • \boldsymbol{v}, \boldsymbol{w}\in \mathbb{R}^nの内積,\boldsymbol{v}\bot \boldsymbol{w}, \|\boldsymbol{v}\|.
  • 部分空間V\subset \mathbb{R}^nの正規直交基底.
  • 部分空間V\subset \mathbb{R}^nの直交補空間V^{\bot}, Vへの直交射影\mathrm{pr}_V

4.3. Cauchy-Schwartzの不等式

  • Pythagorasの定理とその帰結:\|\mathrm{pr}_V(\boldsymbol{x})\|\leq \|\boldsymbol{x}\|.
  • 特にCauchy-Schwartzの不等式:|\boldsymbol{x}\cdot \boldsymbol{y}|\leq  \|\boldsymbol{x}\|\|\boldsymbol{y}\|.
  • 2つのベクトルのなす角.

4.4. Gram-Schmidtの直交化

5月16日 内積空間

  • \mathbb{R}ベクトル空間に加えて\mathbb{C}ベクトル空間も扱う.
  • \mathbb{R}/\mathbb{C}ベクトル空間上の内積,内積空間とその例
  • 内積空間の元のノルム,内積空間の距離関数,内積空間での直交関係
  • 内積空間の有限次元部分空間への直交射影,Gram-Schmidtの直交化
  • 例:Fourier展開への導入

5月23日 行列式の補足

6.1. 対称群

  • n次の置換とn次の対称群S_{n} .
  • \ell 次巡回置換,互換.互いに交わらない巡回置換.
  • n 次の置換の巡回置換分解.
  • 置換の符号.

6.2. 行列式

  • 行列式の定義
  • 行列式の線型性,交代性,転置で不変なこと.
  • 行列式の計算法,行列式が乗法的なこと.

5月30日 行列式 (その2)

  • 行列式のLaplace展開
  • m次元平行体のm次元体積
  • その行列式表示
  • n 次可逆行列Aに対する,方程式A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}の解の公式(Cramer)
  • 線型変換の行列式

6月6日 固有値と固有ベクトル

  • 線型変換の固有値と固有ベクトル,固有空間と広義固有空間
  • 固有値の計算法:特性方程式
  • n 次正方行列A のフィルトレイション\{F^k_A:=\mathrm{Im}(A^k)\}
  • 分割とヤング図形

6月13日 Jordan 標準形

6月20日 Jordan 標準形 (やり直し)

  • 冪零行列とその標準形
  • n 次正方行列A の広義固有空間分解
  • Hamilton-Cayleyの定理
  • Jordan標準形

6月27日 エルミート形式

  • エルミート形式とエルミート行列
  • エルミート行列のスペクトル定理
  • エルミート形式への帰結

7月4日 特異値分解

  • {}^{t}AA の半正定値性と行列の特異値
  • 行列の特異値分解

7月11日 双対空間

  • ベクトル空間V上の線型形式,Vの双対空間V^\vee
  • 双対基底
  • 部分空間W\subset Vに付随する全射V^\vee\twoheadrightarrow W^\veeとその核W^\bot
  • 線型写像f:V\rightarrow Wの随伴写像{}^tf:W^\vee\rightarrow V^\vee

    \displaystyle \mathrm{Im}\,{}^tf=(\mathrm{Ker}\,f)^\bot,\quad \mathrm{Ker}\,{}^tf=(\mathrm{Im}\,f)^\bot

  • 自然な同型V^{\vee\vee}\cong V

7月18日 テンソル積

  • 双線型形式の空間\mathrm{Bil}(V\times W)\cong \mathrm{Hom}_{\mathbb{R}}(V,W^\vee)
  • テンソル積V\otimes_{\mathbb{R}} Wとその普遍性
  • V\otimes Wの基底
  • テンソル積の性質:直和との関係

7月25日 対称冪と交代冪

成績評価について

成績評価は演習のレポートによります.