2019年9月19日12:39作成
2020年2月12日19:40更新
授業の日時,場所
- 火曜日2時限目
- 講義棟302号室
教科書
この授業は原則として次の教科書に沿って進めます。
代数学3 体とガロア理論
桂利行著
東京大学出版会
授業の進め方
授業は講義によります.講義だけでも履修可能ですが,ガロア理論を通じて触れる対称性や等質空間などの現代数学の考え方に慣れ親しむためには,授業中に出題する宿題を各自で解いてみることが非常に大切です.
授業内容
これはあくまでも予定であり,諸事情により変更になることがあります.
10月8日 導入と復習
1.1. 導入—歴史の概要
1.2. 環の復習
- (単位的)環とその部分環.
- 環の単元群
- 可換環と整域
- 可換環のイデアル と商環
- (環)準同型と準同型定理
1.3. 体の復習
- 体 (field)とは,環でがアーベル群であるもの.
(i) 体は特に整域である.
(ii)群は少なくとも単位元を含むから,体に対して.
補題 零環でない可換環が体 のイデアルはと自身しかない.特に,体の準同型は常に単射.
例1 , , は体.また素数に対して商環も体.
1.4. 素体と標数
を体として,写像を考える.
- のとき,は準同型
に延びる.このときは標数 (characteristic) で,はその素体 (prime field).
- , ()のとき,は素数で,は
に落ちる.このときの標数はで,はその素体.
例 のFrobenius自己同型.
10月15日 体拡大
2.1. 多項式環の復習
- 体を係数とする一変数多項式環
- , の次数 .
- がモニック .
- 環がを含むとき,に対する代入準同型
除法の原理 , ,
- ;
- .
;商 (quotient), ;余り (剰余,residue).
帰結
- (因数定理) がを根に持つ: がで割り切れる.
- 従っての内の根は高々個.
- はEuclid整域なので単項イデアル整域 (PID).
- 特には一意分解整域 (UFD).
2.2. 多項式の既約性
Gaussの補題. が既約であるためには,それがの元として既約なことが必要十分.
補題2.2. 既約分数がの根ならば,かつ.
これだけでも特別な3次式の既約性が判定できる.
命題2.1 (Eisensteinの判定律). が,ある素数に対して
を満たせばは既約.
2.3. 体拡大
定義 2.1. が体の部分体のとき,をの拡大体 (extension field)と呼ぶ.記号:.
;の(拡大) 次数 (degree).
命題 2.2. ;体拡大の列.
(i) かつ.
(ii) そのとき.
2.4. 体の生成
定義 2.2. ;体拡大,;部分集合.
をで生成される (部分) 代数,
を上でにより生成される部分体という.
が部分体のときをとの合成体 (composite)と呼び,と書く.
が有限集合のとき
補題 2.4. 体を含む整域が上有限次元なら,は体.
定義 2.3. ;体拡大.に対しての形の拡大を単純拡大(simple extension)という.
10月22日 即位礼正殿の儀
10月24日(木曜日!)代数拡大と超越拡大
3.1. 代数元と超越元
;体拡大,.代入準同型
- のとき,は分数体の同型
に延びて,は上で超越的 (transcendental).
- のとき.;モニック多項式 s.t. .体の埋め込み.
- は同型で,.は既約.
- .
このときは上代数的 (algebraic).;の上の最小多項式 (minimum polynomial).
定義 3.1. ;体拡大が代数的とは,任意のが上代数的なこと.そうでない時,は超越的であるという.
命題 3.1. 体拡大が有限次. は代数拡大で,は有限生成代数.
系 3.1. (a) が代数拡大なら,なる部分環は体.
(b) , が代数的ならも代数拡大.
3.2. 代数閉体 .
多項式が分解する(split)とは,それが一次式の積に分解すること.
命題 3.2. 体について次の4条件は互いに同値.
- 任意のは分解する.
- 任意のは内に少なくとも一つの根をもつ.
- の既約元は一次式である.
- の有限次拡大は自身だけである.
定義 3.2. 体は命題3.2の条件をみたすとき,代数閉体 (algebraically closed field)と呼ばれる.体の代数閉包 (algebraic closure)とは,代数拡大で代数閉体であるもの.
補題 3.1. 代数拡大で,任意のがで分解するものはの代数閉包.
10月29日 分解体
4.1. 分解体
定義 4.1. (i) 拡大がを分解がで分解.
(ii)さらにがの根で上生成されるとき,をの(最小) 分解体 (splitting field)という.
命題 4.1. (i)任意のの分解体が存在.
(ii) .
4.2. 準同型の延長
命題 4.2. ;単純拡大,;拡大.
(i) が上超越的なら,次は全単射.
(ii) が上代数的なとき,その最小多項式をとして,次は全単射.
- ;体の同型,に対して
命題 4.3. ;多項式の根(の一部) で生成される拡大.;同型.;を分解する拡大.
(i) .さらにが個の異なる根を持てば後半は等式.
(ii)さらに, がそれぞれ, の最小分解体なら,となるはすべて同型.特にの最小分解体は同型を除いて一意.
系 4.1. ;有限次拡大.
(i)任意の体拡大に対して,.
(ii)その有限次拡大でとなるものがある.
11月5日 分離拡大
5.1. 重根
- , ;その分解体.
このときがの単根 (simple root) .
そうでないときは重根 (multiple root).
命題 5.1. 既約多項式について次の4条件は互いに同値.
- は重根を持つ.
- とは非自明な共通因子を持つ.
- は正標数を持ち,.
- の根はすべて重根.
定義 5.1. (i) が分離的 (separable) 任意の既約因子が重根を持たない.
(ii)体が完全 (perfect)とは,の任意の元が分離的であること.
5.2. 体の自己同型群
- 環の自己同型群.が代数のとき,の代数自己同型群:
命題 5.2. 分離的なの最小分解体をとすれば,.
5.3. 固定体
定義 5.2. ;体,;部分群
命題 5.3 (E. Artin). 有限部分群に対して.
系 5.1. 有限部分群に対して.
11月12日 ガロア理論の基本定理
6.1. ガロア拡大
定義 6.1. (i)代数拡大が分離的 (separable)とは,任意のの上の最小多項式が分離多項式であること.
(ii)代数拡大が正規 (normal)とは,任意のの上の最小多項式がで分解すること.
定理 6.1. 体拡大について次の4条件は同値である.
- はある分離多項式の最小分解体.
- で,の固定体は.
- ある有限部分群があって.
- は有限次正規分離拡大.
定義 6.2. (i)有限次代数拡大がガロア (Galois) 拡大であるとは,それが定理2の互いに同値な4条件を満たすこと.
そのときをのガロア群 (Galois group)と呼んでと書く.またの軌道
の元をの共役元 (conjugate)という.
(ii)有限次ガロア拡大がアーベル拡大 (abelian extension)とは,がアーベル群であること.さらにが巡回群のとき,は巡回拡大 (cyclic extension)であるという.
系 6.1. (i)任意の有限次分離拡大を含む有限次ガロア拡大が存在.
(ii)体拡大の列においてがガロア拡大なら,もガロア拡大.
6.2. ガロア理論の基本定理
- ;拡大列.を拡大の中間体 (intermediate field)という.
定理 6.2 (ガロア理論の基本定理). (1) ;ガロア拡大.
は全単射で互いの逆写像.
(2)さらにこの全単射は次の性質を持つ.
- 包含関係を逆転: .
- 次数は指数:のとき,.
- 同変:,;部分群に対して,.
- 中間体がのガロア拡大であるためには,がの正規部分群であることが必要十分,そのとき
は同型.
11月19日 ガロア群の計算
7.1. 初等的な例
例7.1. のとして,のガロア群と中間体.
命題 7.1 (推進定理). 拡大の有限次中間体, を取る.
(i) がガロア拡大なら,, もガロア拡大.
(ii)そのときは同型.
例7.2. の分解体のガロア群.
7.2. 多項式のガロア群
- 次の対称群 .変数の差積
対称群の符号指標と次交代群 .
- ;モニックで重根を持たない多項式の分解体のガロア群.
と分解して,単射準同型:
により,をと同一視.
- の判別式:
命題7.2. で,.
補題7.1. がの根の集合に推移的に作用するためには,が既約であることが必要十分.
11月26日 ガロア群の計算2
8.1. 3次式と4次式
3次式のガロア群
が平方数か否かにより,かになる.
4次式のガロア群
- の推移部分群は次の通り.
- . ただしはKleinの四元群.はの中の正四面体の合同変換群(正四面体群).
- 二面体群: , , .
- 4次巡回群.
- ;既約モニック分離4次式., ()として,
- はに推移的に作用.固定化群は, , .
- .
- の分解三次式 (resolvent cubic)
- ならその値から,は決まる.
- のとき.
- が既約なら,.
- そうでなければ,.
8.2. 有限体
定理 8.1. ;素数.
(i) に対して個の元からなる体が同型を除いてただ1つ存在.それはの最小分解体.
(ii) は素体上の次巡回拡大で,そのガロア群はフロベニウス自己同型で生成される.系 8.1. ,.
(i) の任意の約数に対して,の中間体で個の元からなるものがただ一つある.
(ii) の中間体は全てこうして得られる.系 8.2. .次数がの約数である既約多項式はの素因子.
系 8.3. 有限体の代数閉包が存在する.
12月3日 ガロア理論の応用
9.1. 有理数体のガロア拡大の例
命題 9.1. ;体.;重根を持たないモニック多項式,;その分解体,;の根
をによる軌道分解とすると,はに属し
はでの既約分解.
事実 9.1. ;素数,;モニック多項式 s.t. は重根を持たない.
;の最小分解体,;の最小分解体.
(i) の根はでのの整閉包に含まれる.
(ii) ;素イデアル s.t. .
(iii) , ()はの根で,との対称群を同一視すると,.- 次対称群内の共役類はの分割と一対一に対応する.
定理 9.1 (Dedekind). ;モニック多項式,;素数 s.t.
- 法還元は重根を持たない.
- での既約分解がある.ここでとおく.
このとき,は型の置換を含む.
例 9.1. をGalois群に持つ多項式の例.
9.2. 原始元
- 単純代数拡大に対し,となるをの原始元 (primitive element)という.
定理 9.2. 有限次拡大で,が上で分離的なら,の原始元が存在.特には単純拡大.
例 9.2. (i) Galois拡大の原始元の見つけ方.
(ii) 原始元がない有限次拡大の例.12月10日 ガロア理論の応用2
10.1. 円分拡大
- ;体.に対して,がの原始乗根 (primitive -th root of unity)とは,であること.
- 定義からの原始乗根は高々個.
命題 10.1. ,;標数がを割りきらない体.;の最小分解体.
(i) はの原始乗根を含み,.
(ii) はガロア拡大で,をで定めれば,これは定義可能な単射準同型.- 次円分多項式 (cyclotomic polynomial)を次の漸化式によって定める.
- のとき,
- ,
特に.
命題 10.2. (Gaussの補題の別版) モニック多項式のモニックな因子はに属する.
定理 10.1 (Dedekind). はの既約元.特に
は同型.
10.2. 指標の線型独立性
定理 10.2 (Dedekind). ;体,;群のとき,任意のは線型独立.
系 10.1. 体, に対して,任意のは線型独立.
10.3. 正規底
定理 10.3 (正規底定理). ;ガロア拡大.の基底として, ()の形のものが取れる (正規底 (normal basis)).
12月17日 群コホモロジー
11.1. 鎖複体
定義 11.1. ;群.
(i) を基底とする加法群にと乗法を定めて得られる環をの群環 (group ring)という.
(ii)左加群を加群 (-module),それらの間の線型写像を準同型 (-homomorphism)と呼ぶ.
;加群からへの準同型からなるアーベル群.- 鎖複体 (-chain complex) と,その次ホモロジー群 .
- 鎖写像 (-chain map) と付随するホモロジー群の準同型.後者はのホモトピー同値類のみによる.
11.2. 射影分解
命題 11.1. 加群について次の二条件は互いに同値.
- ;全射準同型,;準同型, s.t.
- はある自由加群の直和因子.
このとき,は射影的 (projective).
命題 11.2. (i) ;加群は;射影分解 (projective resolution), i.e. ;完全系列 s.t. , ();射影的.
(ii) ;別の射影分解,;鎖写像 (up to homotopy) s.t.11.3. 群コホモロジー
定義11.2. , ;加群,;射影分解
;アーベル群の余鎖複体 (cochain complex).
その次コホモロジー群がExt群:特にのとき,
を係数の次コホモロジー群 (-cohomology group)という.
補題 11.1. , ()は標準的: 一意な同型を除いて射影分解の取り方によらない.
12月24日 ガロアコホモロジー
12.1. 群コホモロジーの性質
- ;群,アーベル群の圏を, 加群の圏をと書く.
定理 12.1. はコホモロジー関手 (cohomological -functor):
- ;の短完全列に対して,, () s.t. 次は完全列:
- の各行が完全列である可換図式
に対して(i)のは次の可換図式を与える:
12.2. 余誘導加群
- ;部分群,に対して,
;を作用により加群と見たもの(のからへの余誘導加群 (coinduced module)).
命題 12.1 (フロベニウス相互律). , について自然な同型がある.
系 12.1 (シャピロの補題). ;部分群.について自然な同型がある.
12.3. ガロアコホモロジー
定義 12.1. ;有限次ガロア拡大,;加群.に対して
を係数の次ガロアコホモロジー群という.
系 12.2 (正規底定理). , ().
定理 12.2 (ヒルベルト 90 定理). .
1月7日 低次方程式の解法
13.1. 巡回拡大
- .;の原始乗根を含む体.
- の原始乗根の群
命題 13.1. ;のでの像.
(i) のとき,;の最小分解体,;の根とすると,はの取り方によらない同型.
(ii) は,の次巡回部分群の集合から,の次巡回拡大の同型類の集合への全単射.13.2. 三次方程式の解法
詳細略13.3. 4次方程式の解法
詳細略1月14日 月曜日の授業を行う
1月21日 ガロアの可解性定理
- 授業アンケート
- 期末試験の連絡
14.1. Galoisの可解性定理
- ;体.多項式, あるいは付随する方程式が冪根で解けるとは,その任意の解がの係数から
- 四則演算と
- 冪乗根, ()を取る操作
によって得られること.
- 群の部分群, の交換子群
, が正規部分群ならも正規部分群.
- の導来列
を帰納的に, ()で定める.
- が可解群であるとは,次の同値な2条件が成り立つこと.
- ある自然数でとなる.
- 正規部分群の列で各, ()がアーベル群になるものがある.
定理 14.1. ;標数の体.が根号で解けるためには,その最小分解体のGalois群が可解群であることが必要十分.
14.2. 代数閉包
定理 14.2 (シュタイニッツ (Steinitz)). (i)任意の体の代数閉包が存在する.
(ii)代数拡大との代数閉包に対して,代数の(単射)準同型がある.さらにが代数閉体ならこれは同型になる.注意 14.1. 上では一意ではない.また自然な同型が存在するわけでもない.
1月28日 出張のため休講
2月4日 試験
成績評価について
代数学IIIの成績評価は期末テストの結果により行います.
期末試験について
2月4日(火)の講義の時間に講義室で期末試験を行いました.
2月12日(水)から数理・IMI 事務室で,期末テスト答案を返却してもらっています.履修者の皆さんは3月末日までに,各自の答案を受け取りに行ってください.
- 範囲は体論の基礎とガロア理論およびその応用,10月8日から1月21日までの授業および演習の内容.
- テキストやノートの持ち込みは禁止します.
- 筆記具,学生証を持参すること.